東京高等裁判所 平成12年(う)1414号 判決
被告人 小島こと松岡公詞
〔抄 録〕
論旨に対する判断に先立ち、職権により調査すると、原判決は、犯罪事実として、二個の窃盗行為からなる常習累犯窃盗の事実を認定し、被告人を有罪としていることが明らかである。ところで、常習累犯窃盗罪の成立を認めて被告人を有罪とするには、同罪を構成する窃盗行為の点だけでなく、同罪の要件である前科についても、被告人の自白のほかに補強証拠が必要であると解すべきである。これを本件についてみると、記録によれば、原審において、検察事務官作成の前科調書(原審証拠等関係カード乙17)、前記前科に係る調書判決謄本(同乙18、19)及び判決書謄本(同乙21)が、同意書面として取り調べられていることが明らかであるが、原判決は、これらを証拠として挙示しておらず、結局、前記前科に関する内容の証拠としては、被告人の原審公判供述、被告人の検察官調書(同乙5、6)を挙示する(ただし、右検察官調書は、原判示一の事実の証拠として掲げられている。)だけであって、これら被告人の自白を補強するに足りる証拠を挙示していない。もっとも、原判決は、原判示全事実の証拠として、関口浩二の警察官調書(同甲2。なお、同調書の立証趣旨は、「被告人が関口に犯行を打ち明け、警察に出頭した状況」というものである。)を挙示しているところ、右調書中には、被告人は身内や勤務先のお金を盗む悪事の繰り返しだったようで、警察に何度も捕まって刑務所に入ったことを被告人の実父から聞いていた旨の供述記載があるが、その内容自体漠然としたものであるにすぎないし、原判決の挙示する前記被告人の原審公判供述や検察官調書の中の被告人の前科に関する自白自体が相当に簡略なものにとどまっていることなどをも考慮すると、前記のような内容の関口の警察官調書は、右前科についての被告人の自白を補強するには足りないというべきである。
そうすると、原判決は、補強証拠を挙示することなく、被告人の自白のみによって常習累犯窃盗罪の要件である前科を認定して被告人を有罪としたといわざるを得ず、原判決には、刑訴法三一九条二項に違反した訴訟手続の法令違反があり、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかというべきである。したがって、原判決は破棄を免れない。
(村上光鵄 木口信之 中里智美)